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衛星画像処理の基礎と応用 - リモートセンシングから変化検出まで

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衛星画像とリモートセンシングの基礎

衛星画像処理 (Satellite Image Processing) は、人工衛星に搭載されたセンサーで取得した地球観測データを解析する技術です。農業、環境監視、都市計画、防災、気候変動研究など幅広い分野で活用されています。

主要な地球観測衛星:

衛星画像の特徴:

衛星画像は通常の RGB 画像と異なり、各ピクセルが物理量 (放射輝度や反射率) を表す定量的なデータです。この特性を活かした解析が、リモートセンシングの核心です。

前処理 - 幾何補正と大気補正

衛星画像の生データには、センサーの幾何学的歪み、大気の影響、地形の影響などが含まれています。定量的な解析を行うためには、これらの影響を除去する前処理が不可欠です。

幾何補正 (Geometric Correction): 衛星の姿勢変動、地球の曲率、地形の起伏による画像の歪みを補正し、地図座標系 (UTM など) に正確に位置合わせします。

大気補正 (Atmospheric Correction): 大気中の散乱・吸収の影響を除去し、地表面の真の反射率を推定します。

雲マスク: 雲に覆われたピクセルは地表情報を含まないため、解析から除外する必要があります。Sentinel-2 の SCL (Scene Classification Layer) バンドが雲・雲影・雪を自動分類します。Fmask アルゴリズムも広く使用されています。雲被覆率が 30% を超えるシーンは通常使用しません。

植生指数と水域指数 - バンド演算による情報抽出

衛星画像のマルチスペクトルバンドを組み合わせた演算 (バンド演算) により、植生の活性度、水域の分布、土壌の状態などを定量的に評価できます。これらの指数は環境モニタリングの基本ツールです。

NDVI (Normalized Difference Vegetation Index): 最も広く使用される植生指数です。健全な植生は近赤外 (NIR) を強く反射し、赤色光 (Red) を吸収する特性を利用します。

NDVI = (NIR - Red) / (NIR + Red)

NDWI (Normalized Difference Water Index): 水域の検出に使用します。

NDWI = (Green - NIR) / (Green + NIR)

その他の重要な指数:

Python では rasterio でバンドデータを読み込み、NumPy の配列演算で指数を計算します。ゼロ除算を避けるため np.where(denominator != 0, numerator/denominator, 0) のガード処理が必要です。

土地被覆分類 - 機械学習による地表面の分類

土地被覆分類 (Land Cover Classification) は、衛星画像の各ピクセルを「森林」「農地」「都市」「水域」などのカテゴリに分類する処理です。都市計画、環境アセスメント、炭素収支の推定に不可欠です。

教師あり分類の手法:

訓練データの作成:

精度評価: 混同行列 (Confusion Matrix) から以下の指標を計算します。

Google Earth Engine (GEE): クラウドベースの地理空間解析プラットフォームで、ペタバイト規模の衛星データにブラウザからアクセスし、分類処理を実行できます。JavaScript または Python API で利用可能で、大規模な時系列解析に最適です。

変化検出 - 時系列衛星画像からの変化抽出

変化検出 (Change Detection) は、異なる時期に撮影された衛星画像を比較し、地表面の変化を自動的に検出する技術です。森林伐採、都市拡大、災害被害の把握に活用されます。

変化検出の基本手法:

深層学習による変化検出:

時系列解析: 2 時期の比較だけでなく、数年分の時系列データを解析することで、季節変動と実際の変化を区別できます。BFAST (Breaks For Additive Season and Trend) アルゴリズムは、時系列の季節成分とトレンド成分を分離し、突発的な変化点を検出します。

実践例 - 森林伐採の検出: Sentinel-2 の NDVI 時系列を月次で計算し、前年同月比で 0.3 以上低下した領域を伐採候補として抽出します。雲マスクと季節変動の補正を適用し、偽陽性を削減します。Global Forest Watch はこの手法で全球の森林変化をほぼリアルタイムで監視しています。

衛星画像処理の実践 - ツールとワークフロー

衛星画像処理を実務で活用するための具体的なツール、データ取得方法、処理パイプラインを解説します。無料で利用可能なリソースを中心に紹介します。

データ取得:

処理ツール:

処理パイプラインの例:

大規模処理の戦略: 全国規模の解析では数 TB のデータを処理する必要があります。Google Earth Engine、AWS Lambda + S3、または Dask による並列処理が有効です。COG 形式を使用すると、必要な領域のみを部分的に読み込めるため、I/O を大幅に削減できます。

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